ひとり支度困りごとから探す

困りごとから探す > 財産の行き先

遺言書の書き方。相続人がいないとき、財産を渡したい人へ

2026年8月17日時点の情報です。

相続人が一人もいない場合、財産は最後に国のものになります。渡したい相手がいるなら、遺言を書けば親族でない人にも渡せます。書かなければ渡りません。

引き取る人がいないと、家は空き家のまま、口座は凍結されたままです

亡くなってすぐ国が引き取るわけではありません。お金を貸していた人、部屋を貸していた大家、生前に世話をしていた方。こうした関わりのある人が家庭裁判所に申し立てて、財産を管理する人(相続財産清算人)を選んでもらいます。選ばれた清算人が借金や未払いを片づけ、残った分が国に納められます。

誰も申し立てなければ、家は空き家のまま残り、口座は凍結されたままです。固定資産税や管理費だけがたまっていきます。

遺言を書く人は1割に満たず、年1,291億円が国に納められています

相続人がいないまま国に納められた財産は、2024年度で1,291億円。10年前の約3倍で、過去最多です。

一方、遺言を作る人も増えています。公証役場で作られた遺言は2024年に12万8千件ほど。自分で書いた遺言を法務局に預ける制度は2020年に始まり、5年で10万件ほどが預けられました。とはいえ年に亡くなる方は約160万人なので、割合としては1割に届きません。

団体への寄付を選ぶ方は、さらに少数です。年に800件ほどで、6年で倍になってはいるものの、全体から見ればごくわずかです。

友人にも、世話になった方にも、団体にも渡せます

長く付き合いのある友人、世話になっている方、通っている施設、寄付したい団体。渡す先に決まりはありません。ただし、渡すと書いておかなければ渡りません。

書かなかった場合にも道はあります。生計を一緒にしていた方や、療養看護に努めた方は、家庭裁判所に申し立てれば財産を受け取れる仕組みがあります。ただし認められるかどうかは裁判所の判断で、確実ではありません。しかも申し立ては、受け取る側が自分で行うことになります。遺言があれば、その手間は要りません。

ひとつ気をつける点があります。施設や病院によっては、そこで働く職員が入居者から財産を受け取ることを禁じています。渡すつもりがあるなら、先にその施設へ確かめてください。あとで断られると、その分の行き先がなくなります。

兄弟や甥姪が現れても、遺言はひっくり返されません

子も親もいない方の場合、相続人になりうるのは兄弟姉妹と、その子(甥姪)です。この人たちには、遺言をくつがえす権利がありません。

遺言があっても一定の割合は取り戻せる、という権利(遺留分)がありますが、これを持っているのは配偶者・子・親だけです。兄弟姉妹には認められていません。疎遠だった兄が亡くなったあとに現れても、遺言で友人に渡すと書いてあれば、そのとおりになります。

実際に起きるとすれば、次の2つです。どちらも、作り方で防げます。

遺言が思ったとおりに効かない2つの場合

1

遺言そのものが無効だと言われる

自分で書いた遺言は、日付や押印の不備、書いたときに判断できていたかを持ち出されます。公証役場で作れば、ここはほぼ潰せます。

2

銀行や法務局で手続きが進まない

書いてあっても、遺言を銀行や法務局に持って行く人がいなければ、預金も名義もそのままです。遺言を実行する人(遺言執行者)を遺言の中で決めておけば、指名された人だけで進められます。財産を受け取る本人でも、司法書士や弁護士でも大丈夫です。

作り方は3通り。自宅に置くか、法務局に預けるか、公証役場で作るか

どれも法律上は同じ効き目があります。違うのは、書く手間と、無効になる心配と、亡くなったあとに見つけてもらえるかどうかです。

自筆・自宅に置く自筆・法務局に預ける公証役場で作る
書く手間全部を自分の手で書く全部を自分の手で書く口で伝えれば公証人が作る
費用かからない3,900円4万円ほど
形式の不備誰も見ていない預けるときに見てもらえる起きない
亡くなったあと家庭裁判所の検認が要る検認は要らない検認は要らない
見つけてもらう知らせる仕組みがない法務局から知らせが届く知らせは届かない

公証役場の手数料は財産の額で決まります。3千万円を1人に渡す場合で4万円ほどです。法務局に預ける場合に見てもらえるのは形式だけで、中身の相談には応じてもらえません。知らせが届く相手は3人まで指定できます。公証役場のほうは、渡す相手や遺言執行者が出向いて調べれば分かります。

自宅に置いておいても遺言としては有効です。ただし家族がいないと、遺品を整理する人がいません。家ごと処分されて、そのまま出てこないことがあります。封をした遺言を誰かが勝手に開けると、5万円以下の過料になります(遺言そのものは無効になりません)。

自筆の遺言書の見本。第1項で預金を友人に遺贈すること、第2項で不動産を遺贈すること、第3項で遺言執行者を指定すること、末尾に日付と住所と署名押印。親族でない人には「遺贈する」と書くこと、財産は銀行名と口座番号まで書くこと、遺言執行者を書かないと銀行や法務局で手続きが進まないこと、日付を「八月吉日」と書くと無効になることを注記

法務局に預ける場合は、本人が法務局へ出向きます。代理では預けられません。見てもらえるのは形式だけで、書いた中身がそのとおりに効くかどうかは判断してもらえません。

無効にされたくない、書くのが面倒だ、というときは公証役場です。亡くなったことを知らせる仕組みが欲しいなら法務局です。

書いただけでは始まりません。亡くなったことが伝わって動き出します

遺言は、誰かが気づくところから始まります。気づかれなければ、書いてあっても何も起きません。ここがおひとりさまで一番詰まるところです。

法務局に預けた場合は、3人まで知らせる相手を指定しておけます。亡くなったことが確認された時点で、法務局からその人たちへ知らせが届きます。公証役場で作った場合は、知らせが届く仕組みがありません。渡す相手や遺言執行者が公証役場へ出向いて調べれば分かりますが、遺言があること自体を知らなければ、調べに行きません。

確実なのは、遺言を実行する人(遺言執行者)に、生きているうちに伝えておくことです。死後事務委任契約と同じ人にしておけば、亡くなったことを最初に知る立場になります。

遺言執行者は、銀行や法務局を回る役。財産を受け取る人が兼ねても大丈夫です

役目が違います。財産を受け取る人は、渡される側です。遺言執行者は、渡すための手続きをする人です。銀行に行き、法務局に行き、名義を変える役です。

同じ人が両方を兼ねても大丈夫です。おひとりさまの場合、財産を渡す友人にそのまま遺言執行者を頼む形がよくあります。銀行や法務局を回るのが難しそうなら、司法書士や弁護士を指定します。

遺言執行者がすること

1

相続人がいれば、遺言の中身を知らせる

就任したあと、遅滞なく知らせることになっています。相続人がいない場合は要りません。

2

財産の一覧を作る

預金、不動産、証券。どこに何があるかを調べて書き出します。

3

預金を解約し、不動産の名義を変える

遺言執行者だけで進められます。相続人の同意は要りませんし、相続人が勝手に処分することもできません。

4

書いてあるとおりに渡す

売って現金にしてから渡す、と書いてあれば、売るところまで行います。

司法書士や弁護士に頼む場合は報酬がかかります。司法書士だと財産の1%ほどで、最低30万円と決めている事務所が多いところです。信託銀行の遺言信託を使うと、最低110万〜165万円ほどかかります。友人に頼む場合は、無報酬でも、遺言の中で金額を決めても大丈夫です。

指名した人に生きているうちに伝えるかどうかは、自由です

誰にも言わずに書いて大丈夫です。伝える義務はありません。

ただし、遺言執行者は引き受けを断れますし、財産を受け取る人も受け取りを断れます。断られると、家庭裁判所に選び直してもらうことになり、そのあいだ何も進みません。頼むつもりの相手には、先に話を通しておくほうが早く進みます。

それに、おひとりさまの場合は、遺言があること自体を誰も知らないという問題があります。伝えておけば、頼まれた人のほうから探しに行きます。

よく聞かれること

相続人が本当にいないか、どうやって確かめますか

戸籍をたどって確かめます。自分の戸籍だけでなく、親の戸籍まで遡って、きょうだいがいないか、その子がいないかを見ます。市区町村の窓口で自分の分は取り寄せられますが、たどるのに手間がかかるので、司法書士や行政書士に頼む方が多いところです。長く会っていない親族が見つかることもあります。

公証役場で作ったものを、法務局に預けられますか

預けられません。法務局の保管制度は、自分で書いた遺言だけが対象です。公証役場で作ったものは原本が役場に残るので、なくす心配はありません。そのかわり、亡くなったときに知らせが届く仕組みがありません。そこは、遺言執行者に生きているうちに伝えておくことでふさぎます。

あとで気が変わったら、書き直せますか

何度でも書き直せます。日付の新しいものが優先されるので、古いものを回収する必要もありません。法務局に預けたものは取り下げられますし、公証役場で作ったものは新しく作り直します。渡す相手が先に亡くなることもあるので、次に渡す相手まで書いておく方もいます。

猫を残していくのが心配です

お金を渡す代わりに世話を引き受けてもらう、という書き方ができます。負担付遺贈といいます。渡す相手が引き受けなければ効きませんので、必ず先に本人へ話を通しておいてください。亡くなった直後に誰が引き取りに行くかは別の話になるので、そこは死後事務委任契約で決めます。

財産が家しかない場合はどうなりますか

家をそのまま渡すこともできますし、売って現金にしてから渡すこともできます。売る形にする場合は、遺言の中で「売って、代金を渡す」と書き、遺言執行者に売却まで任せます。渡す相手がその家に住む予定がないなら、こちらのほうが受け取る側の負担が軽くなります。

出典

  • ・民法 第951条〜第959条(相続人の不存在)/第958条の2(特別縁故者への分与)/第1042条(遺留分)/第1002条(負担付遺贈)
  • ・法務省「自筆証書遺言書保管制度」(手数料、指定者通知、検認の要否)
  • ・日本公証人連合会(公証人手数料令・令和7年10月改定/遺言公正証書の作成件数)
  • ・最高裁判所の統計にもとづく、相続人不存在により国庫に帰属した財産額の報道