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認知症で口座が凍結される前に。家族信託と任意後見でできること

2026年8月14日時点の情報です。

認知症になっても、しばらくは今までどおり使えます。自分で銀行の窓口に行って手続きができるあいだは、何も変わりません。変わるのは、銀行が「この方はもう自分で判断できない」と分かったときです。そこから、自分の口座なのにお金を引き出せなくなります。

口座が使えなくなるのは、銀行の窓口で受け答えができなくなったときです

まとまったお金をおろすときや、定期預金を解約するとき、銀行の窓口では用件とご本人の意思を確かめます。そこで受け答えがかみ合わないと、銀行はその場で応じません。診断書を出したから使えなくなる、という仕組みではありません。

使えなくなるのはATMと銀行の窓口。家賃や電気代の引き落としは続きます

使えなくなるのは、ATMでの引き出しと、銀行の窓口での出し入れです。振込、定期預金の解約、住所やカードの変更、投資信託の売り買いもできなくなります。どれも、その場で本人の意思を確かめる必要がある手続きです。

続くものもあります。すでに設定してある口座振替は、そのまま引き落とされます。家賃、電気・ガス・水道、電話、介護施設の月々の利用料。年金の振り込みも続きます。毎月の暮らしが、その日から立ち行かなくなるわけではありません。

困るのは、まとまったお金を動かすときです。介護施設に入るときの一時金、入院の支払い、家の修繕。これらは銀行の窓口での手続きが要るので、代わりに手続きする人がいないと、支払いができません。

本人の口座からおろせるのは、後見人か、届け出ておいた親族です

後見人は、本人に代わって銀行の窓口に立てます。後見人には2通りあって、判断できるうちに自分で選んでおく形と、判断できなくなってから家庭裁判所に選んでもらう形です。ひとり暮らしで頼める親族がいない方は、このどちらかになります。

もう一つが、判断できるうちに代理人を届け出ておく方法です。代理人カードや代理人の届出と呼ばれます。ただし登録できるのは、配偶者や2親等以内の親族など。範囲は銀行によって違いますが、どこも親族の枠で、知人や友人は登録できません。

判断できるうちなら、お金を管理してもらう人を自分で選べます

お金の管理を任せる方法は3つあります。どれも、判断できなくなってからでは契約できません。

任意後見 ── 誰に任せるかを、自分で決めて契約しておく

判断できなくなったときに、お金や契約の管理を任せる人を、いま決めて契約しておく形です。頼む先は、司法書士・行政書士・弁護士か、民間の会社。親族という条件はないので、知人や友人に頼むこともできます。

任意後見の契約書は公証役場で作ります。任意後見が始まるのは契約した日ではなく、判断できなくなったあと、家庭裁判所が任意後見監督人を選んだ時点です。そこから、任せた人が本人に代わって銀行の窓口に立てるようになります。

できる範囲は、任意後見の契約書に付ける「代理権目録」という一覧で決まります。預貯金の出し入れ、施設や病院の支払い、介護サービスの契約、家の管理。この一覧に書いていないことは、任せた人でもできません。

契約するときは、本人と、任せる人の二人で公証役場に出向きます。本人と任せる人がそれぞれ、印鑑登録証明書と実印、または写真つきの身分証明書と認印を持参します。あわせて、本人の住民票(本籍の記載があるもの)と、任せる人の住民票です。

任意後見契約公正証書の見本。甲は本人、乙は任せる人。第1条に判断能力が不十分になったときの生活・療養看護・財産管理を委任すること、第2条に家庭裁判所が任意後見監督人を選任した時から効力が生じること、第3条に後見事務の範囲は別紙の代理権目録のとおりであること、第4条に月々の報酬。別紙の代理権目録には、預貯金の取引、年金の受領と家賃や施設利用料の支払い、医療や介護の契約、行政手続、居住用不動産の管理が並ぶ

家族信託 ── 財産を預けて、管理してもらう

自分の財産を、信頼できる人に預けて管理してもらう契約です。預けたお金は信託用の口座に移して、そこから支払ってもらいます。本人の口座から引き出すのではないので、その口座が使えなくなっても関係ありません。頼む相手は2つに分かれます。

ひとつは、財産を預かって管理する人。家族でなくてもよく、友人でも引き受けられます。資格も要りません。ただし、この役だけは司法書士や弁護士、民間の会社に頼めません。仕事として財産を預かれるのは信託銀行だけで、家族信託ではここを個人に頼む形になっています。引き受けてくれる個人がいなければ、この仕組みは組めません。

もうひとつは、家族信託の契約書を作って手続きを整える人。こちらは司法書士や弁護士、専門の会社に頼めます。

任意後見との違いは、始まる時期です。家族信託は契約したときから、預けた財産の管理が預かる人に移ります。元気なうちから任せたい場合は、こちらになります。任意後見が始まるのは、判断できなくなってからです。

頼めることの範囲も違います。家族信託で頼めるのは、預けた財産の管理だけ。介護施設に入る契約や、入院の手続きは頼めません。任意後見なら、そこも任せられます。家などの不動産も、代理権目録に入れておけば任せた人が売れます。

家庭裁判所は関わりません。監督人もつかないので、家庭裁判所が決める報酬はかかりません。そのかわり、始めるときにまとまった費用がかかります。

任意後見と家族信託の比較。契約するのはどちらも元気なうち。効き始めるのは、任意後見が判断できなくなってから、家族信託が契約したその日から。頼めることは、任意後見がお金と施設や入院の手続き、家族信託が預けた財産の管理だけ。監督人は、任意後見ではつき家庭裁判所も見る、家族信託ではつかない。お金は、任意後見が効き始めてから毎年ずっと、家族信託が契約のときにまとめて

社会福祉協議会の金銭管理 ── 判断が怪しくなってきた段階で使える

市区町村の社会福祉協議会が、日常のお金の管理を手伝う事業です。福祉サービスの利用料の支払い、生活費の引き出し、通帳や証書の預かりまで引き受けます。

対象は、判断能力が不十分になってきた方のうち、この事業の契約の中身を理解できる方です。まだ元気な方は対象になりません。逆に、症状が進んで契約の中身を理解できなくなると使えなくなり、成年後見に移ります。

相談先は、お住まいの市区町村の社会福祉協議会です。

何も決めないまま判断できなくなると、成年後見になります

何も決めないまま判断できなくなった場合は、成年後見制度になります。家庭裁判所に申し立てて、選ばれた人が本人に代わってお金や契約を管理します。銀行の手続きも選ばれた人が行います。

ただし、誰が選ばれるかを自分で決めることはできません。親族がいない場合は、司法書士や弁護士などの専門職が選ばれることが多くあります。一度始まると、本人の判断能力が戻らないかぎり続きます。

住んでいた家を売るときは、家庭裁判所の許可が要ります。介護施設の費用にあてるためでも、本人のために必要と認められないと下りません。任意後見や家族信託で決めておけば、この許可は要りません。

申し立てる人がいない場合はどうなるか。身寄りがない方については、市区町村長が申し立てられることになっています。施設や病院、地域包括支援センターから市区町村に話が上がり、市区町村が家庭裁判所に申し立てる流れです。

お金の管理を任せると、いくらかかるか

契約するときそのあと毎年
任意後見2万〜18万円48万〜96万円
家族信託50万〜100万円かからない
成年後見決めなかった場合契約しない24万円ほど

右の欄は、判断できなくなってから亡くなるまで毎年かかります。額は依頼する相手や預ける財産により異なります。

任意後見にかかるお金

契約するときにかかるお金

誰に任せる場合でも、公証役場の手数料が2万〜3万円かかります。これに別の費用が加わるかどうかは、任せる相手で変わります。

司法書士や弁護士に任せる場合は、契約書づくりの費用として5万〜15万円ほどが別にかかります。頼まれた専門職が、中身の相談から公証役場とのやり取りまで引き受けます。

友人や知人に任せる場合は、何を任せるかを本人とその友人で決めて公証役場に持ち込めば、公証役場の手数料だけで済みます。中身を決めるのが難しければ、司法書士や行政書士に案づくりだけを頼むこともできます(5万〜15万円ほど)。

判断できなくなってから、亡くなるまでかかるお金

元気なうちはかかりません。かかり始めるのは、判断できなくなって、家庭裁判所が任意後見監督人を選んでからです。

任せた人への報酬は、契約で決めた額です。司法書士や弁護士に任せる場合は月3万〜5万円が相場で、友人や知人に頼む場合は無報酬から3万円ほどまで、話し合いで決めます。任意後見の契約書に書いたとおりに、本人の財産から受け取ります。

これに、任意後見監督人への報酬が月あたり1万〜3万円加わります。額は管理する財産の額によって家庭裁判所が決めるので、契約で変えることはできません。こちらは毎月ではなく、年に1回、監督人が家庭裁判所に申し立てて、認められた額が本人の財産からまとめて支払われます。

合わせると、専門職に任せた場合で月4万〜8万円。年に48万〜96万円が、亡くなるまで続きます。友人に無報酬で引き受けてもらう場合でも、監督人の分はかかります。

家族信託にかかるお金

家族信託の契約書を作って手続きを整えてもらう費用です。財産を預かる役は個人に頼むので、そちらに払うかどうかは契約で決めます。司法書士や弁護士の事務所に一式で頼むと、始めるときに50万〜100万円ほどです。

内訳のうち、契約書そのものを作る分は11万〜16万円ほどです。大きいのは、その手前で中身を決める相談の費用です。どの口座や家を預けてどれを自分で持つか、預かった人に家を売ることまで許すか、自分が亡くなったあと残った分を誰に渡すか。ここを決めないと条文が書けません。預ける財産の1%程度が相場で、最低30万〜50万円と決めている事務所が多くあります。

これに公証役場の手数料が加わります。家を預ける場合は、登記の費用(登録免許税は土地0.3%、建物0.4%)と、登記を頼む司法書士の費用も要ります。

もう一つ、初期費用を10万円台に抑えて、月々の利用料を取る形の会社が出てきています。合計が安いとは限りません。安く見える表示のときは、家族信託の契約書を作る分と公正証書にする分が別立てになっていないか、月々の利用料が何年続くかを確かめてください。家を預ける財産に入れる場合は、どちらでも登記の費用が加わります。

預かる人に報酬を払うかどうかは、契約で決めます。友人に無報酬で引き受けてもらうこともできます。

社会福祉協議会の事業にかかるお金

相談から契約までは無料です。お金がかかるのは、支援員に来てもらってからで、1回(1時間ほど)につき1,200円前後と交通費。いっしょに銀行へ行って生活費をおろす、公共料金の支払いを済ませる、といった手伝いを受けた回ごとに払います。

生活保護を受けている場合は無料です。通帳や証書を預かってもらう場合は、別に年3,000円ほど。金額は自治体によって違い、1回1,300円や1,500円のところもあります。

決めずに成年後見になった場合にかかるお金

家庭裁判所に申し立てるときに納めるのが6千円ほど。判断能力を医師に詳しく調べてもらう必要があると裁判所が判断した場合は、10万円ほどが加わります。申し立てを専門職に頼むと、別に10万〜15万円ほどです。

選ばれた後見人への報酬は、月あたり2万円が目安です。管理する財産が多いとそれより高くなります。額を決めるのは家庭裁判所で、毎月ではなく、年に1回、後見人が家庭裁判所に申し立てて、認められた額が本人の財産からまとめて支払われます。これも亡くなるまで続きます。

任意後見と違って、監督人が必ず付くわけではありません。家庭裁判所が必要と認めたときに選ばれ、その場合は監督人への報酬が加わります。

よく聞かれること

気が変わったら、やめられますか

家庭裁判所が任意後見監督人を選ぶ前なら、いつでもやめられます。理由も要りません。公証役場で認証を受けた書面を、任せた人に内容証明郵便で送り、届いた時点で解除になります。話し合ってやめる場合も、公証役場で認証を受けます。

監督人が選ばれて任意後見が始まったあとは、正当な理由があるときに限り、家庭裁判所の許可を得てやめる形になります。

任せた人が、お金を使い込んだら

任意後見なら、任意後見監督人が、任せた人の仕事ぶりを確かめて家庭裁判所に報告します。不正な行為など任せておけない事由があるときは、家庭裁判所が任せた人を解任できます。解任を求められるのは、本人、親族、任意後見監督人です。

家族信託には監督人がつきません。家族信託の契約書で、預けた財産の出入りを定期的に報告してもらう約束にしたり、それを見る人(信託監督人)を別に決めておくことができます。決めていなければ、気づく手立てがありません。

払い続けるうちに、口座のお金が尽きたら

報酬の額は、本人の財産や暮らしぶりを見て家庭裁判所が決めます。財産が少なければ、その分低い額になります。

生活保護を受けている場合や、それに近い状態の場合は、市区町村が後見人への報酬を助成する制度があります。助成の対象や条件は市区町村ごとに決められているので、使えるかどうかは市区町村の福祉の担当課で確認してみてください。

暗証番号を知人に教えて、代わりにおろしてもらえば?

キャッシュカードを本人以外が使うことは、どの銀行の決まりでも認められていません。あとでお金の使い道が問題になったときに、その知人が疑われる立場になります。頼まれた側を守るためにも、届け出のある形にしておくほうが安全です。

任意後見と、亡くなったあとの手続きは別の契約?

別です。任意後見は生きているあいだのお金や契約の管理、死後事務委任は亡くなったあとの手続きです。同じ人に両方を頼むことはできます。亡くなったあとのほうは死後事務委任契約にまとめています。

出典

  • ・全国銀行協会「金融取引の代理等に関する考え方」(2021年2月)/各銀行が公開している代理人カード・代理人届の申込条件
  • ・日本公証人連合会「任意後見契約」(手数料・必要書類)
  • ・家庭裁判所が公表している成年後見人等の報酬額のめやす、申立てに必要な費用
  • ・老人福祉法 第32条(市町村長による後見開始の審判の請求)
  • ・司法書士・行政書士・弁護士の事務所、家族信託を扱う事業者が公開している報酬表
  • ・厚生労働省「日常生活自立支援事業」および市区町村社会福祉協議会の案内(利用料)